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地球からのSOS

温暖化対策 国家間で利害対立

環境両立、新成長モデルを

 「京都議定書」に基づく地球温暖化ガスの排出削減が今年スタートする。温暖化は人類の存在を揺るがしかねない深刻な問題でありながら、国家間の利害対立が大きく、グローバルな取り組みは容易ではない。世界銀行上級副総裁を務めるなど途上国の現場を知る経済学者であり、温暖化の被害と対策の効果を経済的に分析し、温暖化に対する世界の認識を変えたニコラス・ズターン氏に間いた。

●温暖化は先進国と途上国の対立という新たな南北問題を生みかねません。

主要国の二酸化炭素排出量  「その懸念はある。大気圏に蓄積された二酸化炭素(CO2)など温暖化ガスの大半は先に工業化し、大量排出した先進国の責任だ。だからこそ2050年までに世界全体で温暖化ガスの排出50%削減という07年のハイリゲンダム・サミット(主要国首脳会議)の目標に向け、先進国はより重い80%削減を達成すべき責任がある」

 「国民一人当たりの温暖化ガス排出量は国によって大きな差がある。温暖化の進行を緩和するには一人当たりのCO2排出量を50年に世界平均で年間2~3トンに抑制する必要がある。だが、80%削減という目標を達成しても一人当たり排出量が現在20トンを超える米国は4トン以上になる。削減目標はこうした現時点での排出量の差を考慮に入れ、設定すべきだ」

 「ポスト京都の枠組みに途上国も含め、世界中の国が参加するには『人が排出する温暖化ガスの量を国に関係なく平等に同じ水準にする』という考えに立つ必要がある。(先進国が現在の排出量を既得権とするなど)格差をそのままにして(現状水準から)一律に今後の排出量を抑制するやり方では過去に野放図にガスを排出して成長した先進国が責任をとらず『勝ち逃げ』することになる。途上国側は納得しないだろう」

●中国やロシアなど新興国は成長を見直すべきか。

「先進国が新興国に経済成長を減速するよう求める権利はない。重要なのは成長を止めることではない。環境を悪化させることのない新しい成長モデルをみつけることだ。新興国が成長と温暖化防止を両立できるよう技術きくはないはずだ」
 「途上国を支援する手法は色々ある。例えば途上国が温暖化対策資金を調達できるよう排出権取引市場を活性化させたり、先進国政府が省エネや環境対策の技術開発を主導し、生まれた技術を途上国に供与することだ」

●温暖化対策における企業の役割は。

「民間企業の方が政府よりも先を見通している面がある。一部の企業はすでに『温暖化ガス排出ゼロ(植林による吸収の効果など含む)』を宣言しており、省エネにつながる製品・サービスをビジネスチャンスととらえる企業も多い。
 英大手スーパーのテスコは販売する商品が含むCO2の量を店頭で顧客に表示する予定だ。重要なのは省エネ技術を開発する企業に対し投資促進策を導入したり、排出権取引を活性化させるなど税制や規制などで企業活動を温暖化対策へ誘導することだ」

 「企業活動はグローバル化しており、環境問題はできる限り多くの国が共同で取り組む方が効果的だ。鉄鋼、セメント、アルミニウムなど漁業別に温暖化ガスの削減基準や対応策を国際的にまとめればよい。そうすれば、企業も環境問題では業界内競争を休戦し、一致して取り祖める」

●温暖化への取り祖みでは米国の消極性と欧州の指導力が目立ちます。

 一人当たり排出量が大きい米国は強制力のある枠組みに参加すると、他国より大幅な調整を迫られると恐れているのだろう。
 しかしこれは単なる恐怖心で、実際に具体策を考えれば、相当部分は省工ネ技術の導入で削減を達成できることがわかる。恐れるほど難しくはない、と米国の人々も理解し始めた」

「カリフォルニア州や一部の自治体は連邦政府より先行して取り組んでおり、民間も北東部の電力会社が排出権取引を近く始める。米国は中央集権的な一枚岩の国というわけではなく州や地方、企業によって考え方がかなり異なる。新しい潮流は地方から始まり、徐々に全米に広がる。温暖化対策もそうだ」

●世界全体の動きは依然、鈍いように見えます。

 「以前に比べ、過去一年で取り組みは加速した。一部の専門家が警鐘を賜らす段階か人々が幅広く問題意識を共有する段階に移った。早急な対応が必要と国民が声を上げ始めたために、政治家が問題をを先送りできなくなった。ブッシュ米大統領は07年の一般教書演説で初めて地球温暖化を深刻な問題と認めた。3月には欧州連合(EU)首脳会議が20年までにCO2排出量の90年比20%減の目標を設定した」

 「仏大統領選では全候補が温暖化を重要課題に掲げた。(石炭、天然ガスの大輸出国である)オーストラリアは一年前までは温暖化問題に及び腰だったが、二大政党が競って対応策を表明し、温暖化対策に積極的な労働党が政権に就いた。(京都議定書の削減に加わっていない)中国、インドの両国も環境対策をまとめたり、検討委員会を発足させた。人々は問題の重要性を認識し、高い削減目標を受け入れることに前向きになってきた。政治は国民の期待に沿って動く」

●スターン報告の影響をどうみる。

「報告書は『地球温暖化は本当か』といった学術的議論が決着し、温暖化が経済や日々の生活に影響を与える問題と人々に実感され始めた段階で公表された。『対策のコストは成果に見合うか』といった疑問に答え、コスト増は1%程度で恐れるに足りないと示したため、温暖化対策への警戒心が薄れた」

●日本への期待は。

「08年のサミットが省工ネ技術の開発と普及で経験豊富な日本で開かれることは意味がある。ポスト京都の国際合意を09年にまとめるには08年半ばまでに主な対策を決める必要があり、7月の洞爺湖サミットは決定的に重要となるからだ。削減目標の設定、排出権市場の整備、省工ネ技術の普及、途上国支援などで主催国の日本は議論を主導すべきだ」

 「日本企業の省エネは進んでいるが、日本は一人当たり排出量では欧州とほぼ同水準で、日本もまだ削減に取り組む必要がある」

(日本経済新聞2008年1月5日より)

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